患者・医療者の皆様へ
胆道がんについて
- Q胆道がんとは何ですか?
- A肝臓で生成される胆汁を肝臓から十二指腸に流す管を胆管といいます。肝臓の中にある胆管を肝内胆管、肝臓の外にある胆管を肝外胆管、一時的に胆汁を貯留しておく袋を胆嚢、胆管の十二指腸への出口をVater乳頭といいます。これらの各部位にできるがんをそれぞれ肝内胆管がん、肝外胆管がん、胆嚢がんおよびVater乳頭部がんといい、これらのがんをまとめて胆道がんといいます。
胆道がんは大変予後不良ながんであり、新規治療開発が必要な疾患です。胆道がん治療の改善において1つの有望な方法に、分子標的薬を用いた薬物療法が挙げられます。分子標的薬の登場により、胆道がんの治療選択肢が増えることで、治療奏効割合や予後の改善が期待されます。 - Q胆道がんの遺伝子変異とは何ですか?
- A胆道がんで分子標的治療を行う場合、標的となる遺伝子変異は何でしょうか?胆道がんにおいて、標的となる遺伝子異常にFGFR2融合遺伝子があります。FGFRは線維芽細胞増殖因子受容体(fibroblast growth factor receptor)とよばれる、膜貫通型の受容体チロシンキナーゼです。FGFRは線維芽細胞増殖因子であるFGFが結合することによりに二量体を形成し、下流のシグナル伝達が活性化することで様々な細胞応答を引き起こします。近年の日本および欧米の研究により、このFGFRシグナルの調節異常が、がんの形成や進行につながることが知られています。中でも遺伝子異常の一つであるFGFR2融合遺伝子は肝内胆管がんに一定数(10%程度)発生する遺伝子異常であり、この遺伝子変異を標的とした治療が胆管がん治療開発に寄与することが示唆されています。
胆道がんの遺伝子異常とその治療
- QFGFR2融合遺伝子とは何ですか?
- AFGFR2融合遺伝子とはFGFR2遺伝子と別の遺伝子が再構成されることによって形成された融合遺伝子のことです。例えば、PPHLN1、AHCYL1、BICC1などの遺伝子とFGFR2遺伝子が融合しFGFR2融合遺伝子が形成されると、FGFR2融合タンパクが合成されます。このタンパクは細胞膜上に発現すると、受容体であるFGFRに特異的に結合するタンパク質がなくても二量体となりFGFRシグナル伝達が活性化され、様々な細胞応答が恒常的に引き起こされるようになります。こうしてがん細胞の成長や増殖が促進されてしまうのです。
- Q胆道がんにおけるFGFR阻害薬の開発状況は?
- A現在、FGFR2融合遺伝子に対する分子標的薬の開発はどこまで進んでいるのでしょうか?2022年の時点でFGFR2融合遺伝子に対するFGFR阻害薬の開発は進んでおり、すでに上市されている薬剤も存在します。したがって、胆道がんにおいてFGFR2融合遺伝子が検出されれば、これらの薬剤を使用することで治療効果が改善することが期待されています。
CHOICE study について
- QCHOICE studyの意義
- Aなぜ我々はCHOICE studyを実施するのでしょうか?その理由の1つにアジア地域におけるFGFR2融合遺伝子陽性の胆道がん患者さんを把握することが挙げられます。FGFR2融合遺伝子の肝内胆管がんにおける発現を初めて報告したのは、国立がん研究センターの新井康仁氏(国立がん研究センター がんゲノミクス研究分野主任研究員)です。しかし、上述のように日本と欧米の報告はあるものの、アジア地域にこれらの薬剤を適用できる患者さんがどの程度いるか、その頻度や分布に関するデータは少ないままです。
2つ目の理由としてFGFR阻害薬が耐性化または有害事象の発現などで使用できないことが予見されるため、代替となる治療を開発する必要があります。この時、アジアにおけるFGFR2融合遺伝子陽性胆道がん患者さんの状況が分かれば、それらの患者さんに早く的確に治験を導入する可能性が拡がります。
そして、3つ目の理由として遺伝子異常の検出方法にNGS法を用いることで、FGFR2融合遺伝子以外の標的となる遺伝子異常を見つけられる可能性があります。
遺伝子異常の検査について
- Q遺伝子異常の検出方法とは?
- ACHOICE studyで使用する遺伝子異常の検出方法は何が特徴的なのでしょうか?現在、遺伝子異常の検出方法として最も多く用いられているFISH法はFGFR2融合遺伝子の検査のみを行います。本検査方法は、短時間で結果を得ることができ、少ない検体量でも検査が可能であるという利点があります。そのため、胆道がんにFGFR阻害薬を使用する上で、FGFR2融合遺伝子の有無を確認するための重要な検査方法と考えます。
一方、NGS法ではFGFR2融合遺伝子のみならず、その他の遺伝子異常を網羅的に一度に検査する事が出来ます。つまり、様々な分子標的治療を検討する上で重要な検査となるのです。しかし、NGS法は一定量の検体を確保する必要があります。また、検査の実施には一定レベルの設備、技術、経験が必要です。 国立がん研究センター中央病院はこれらのリソースとアジア各国とのネットワークがあります。我々がリーダーシップを取ることで本試験を効率的に進めていくことができるのです。
CHOICE Studyでは、これら2つの検査方法でFGFR2融合遺伝子の有無を確認するとともに、検査法による結果の違いなども検討します。さらに、すべての症例においてNGS法で得られたその他の遺伝子異常に関してもデータの蓄積をします。
結果として、CHOICE StudyによりアジアにおけるFGFR2融合遺伝子陽性胆道がん患者さんの特徴を把握し、アジア地域の胆道がんの治療改善に貢献できると考えています。